狩猟とは (第八話)

招かざる客

episode 1
岩棚が点在する山肌を 背の低い潅木を両手に
鷲掴みすると ぐいっと体を引き上げる。
急峻な斜面 右前方に存在する岩棚の下は
猪がよく止まる処で 其処を上から覗こうと
高さを稼ぐ  物音を出す事にに注意しなければ

ジリジリと 全身を使っての這い上がりでは
背負う銃が 時折雑木に絡み 体を後方へと
引かれ バランスを崩しては 体力を消耗する

両手が塞がる状態で 何気なしに見上げた
頭上の藪中に 此方を窺う視線 ん・・・・?
身動きのままならない 岩場の至近距離で
クロ(ニホンカモシカ)と 鉢合わせしてしまい
目と目が合った・・・! お互い避け場の無い
岩場で 身動きが取れない!

やがて ソワソワしだしたかに見えた クロは
一瞬 私を見据えると 貼り付く岩棚に向け
頭を下げ 勢い良く駆け下る・・・
右腕一本で支える姿と成った 私の傍らを
黒い影が すり抜けて行く 呆然と姿を消した
岩場を 見下ろす。

episode 2
犬の発信音が 私が待つ谷の上で 停まっているだろう事は 少し前から気付いては居た 微かな止め
鳴きも 風に乗り 途切れ々に聞こえて来る・・。  無線で勢子を呼び出し 持ち場を離れる事を告げ
急峻な谷間を登り出した 其の鳴声ははっきりと耳に届き出し 聞こえる位置から ある状況が考えられ
もしやと不安がよぎる ・・・急がなければ・・・
左手上の断崖を 木々の間から見上げると ・・・居た!・・・ 一頭の白毛紀州が 切り立つ崖の岩棚で
僅かばかりの足場を頼りに 先へ々と伺い 時折吠え込む!   スーッと視線を 犬の鼻先へ送ると
数メートル先の 岩が上部に大きく反り返った下に じっと犬を見据える クロを見つけた ・・・・・。
犬は少しでも 間を寄せようと じり々と前へ進み
心許無い足場を伺う まるでヤツは犬を誘って
居るかの様に 首を上下に揺らす・・・・・・。
近くまで来ているはずの 勢子を呼ぶ この犬を
離さなければ・・・!

少しづつ 身を寄せる犬だが 其の足場での
やり取りでは もうクロの敵では無い!
人間が 其処へと近づく事さえ許さない
・・・まずい!・・・
其の瞬間 クロは頭を下げると 避け場の無い
犬をすくい 捲くった・・・
感覚の無くなった 足をばたつかせ犬は岩棚
から  ・・・落ちた・・・



ニホンカモシカは 其の増加によって林業被害
の深刻さにも 特別天然記念物に指定されて
いる事もあり 法により手厚く守られている。
大物用の猟犬は どういう訳かこのクロを好み 追跡中の猪鹿から乗り換えると非常にやっかいな事と
成る こいつは山中の急峻な崖の 其処かしこに 砦と云った風の避難場所を持ち 其処へと逃げ込む
事で 何人も手が出せなく成ってしまう そんな目立つ処へ立つ事をある地方では ”風立ち”と言ったり
するようだが! その昔 そんな習性や毛皮の良質さに 当時の猟師の格好の獲物と成り 減少した
現在は その保護法により 駆除が必要と成るほどに 増加を続けている。


                                                     OOZEKI